教師や学習者のサクセスストーリーを誇示するために、「偏差値◯◯アップ」という表現をよくみると思います。
しかし、私はあまりそのような表現は今までしてこなかったと思います。その理由は私の中では大きく3つあります。
先に結論から申し上げますと、
- 模試の偏差値は変動しやすいものだから
- 模試で偏差値を上げることは容易だから
- 偏差値アップがゴールではないから
の3点となります。
以下、詳しく解説していきます。
模試の偏差値は変動しやすいものだから
大手の進学塾に通っている生徒だと、いろいろな種類の模試を受けることになるので、同じ生徒が一週間おきに2つの模試を受けるようなこともあったりします。
そのようなとき、同じ生徒・同じ科目なのに、片方の模試では偏差値43、もう片方の模試では偏差値59といった結果を目にすることは、複数の生徒を抱えている教師にとってはそんなに珍しいことではありません。
これを、「一週間で偏差値が16もアップしました!」と捉える人はいるでしょうか。そんなわけはなく、単に問題との相性や、そのときの生徒の調子の良し悪しにすぎません。
このように、模試の偏差値は何もしていなくても結構変動します。
教師が自分の実績を誇示するために、こうした結果を都合の良いように解釈したり、都合の良い例だけを取り上げたりすることは極めて容易なので、こうした数値は売り文句としてはあまり参考にならないのです。
模試で偏差値を上げることは容易だから
意外に感じられる方が多いでしょうか?
難関高校を目指す中学生が受験する有名な模試としては、駿台模試や、早稲アカ、SAPIXの模試がありますね。
これらの模試は出題傾向が決まっており、それに特化した対策をすれば、偏差値を上げることは比較的容易に可能です。
でも、まともな講師はそれが多くの生徒にとっては無意味どころか若干有害な可能性があることを知っているので、そんなことはしないのです。
なぜ有害かを考えるために、「模試で成績が上がった生徒がどう感じるか・どういう行動を取るか」を考えてみましょう。以下の2つが考えられると思います。
- 調子に乗り、油断する
- 自信を得て、より勉強に打ち込めるようになる
注意すべきは、意外と1の生徒が多いということです。
模試に特化した対策をして、本来は偏差値50の実力しかない生徒が、偏差値60を取ってしまったとしましょう。そうなると、志望校選びを間違えて全落ちしてしまったり、油断して必要な勉強をするのが遅れてしまったり、さまざまな弊害が考えられます。
なので、模試は「実力通りの偏差値が出るように、特別な対策をせずに臨む」というのが本来の健全な使い方なのです。
「でも、周りがみんな模試に特化した対策をしているとしたら、自分だけ対策しなかったら逆に実力通りの偏差値は出ないのではないでしょうか?」
こういった疑問の声が聞こえてきそうです。これに関しては私の肌感覚になりますが、模試の対策を真剣にやっている人は実際のところあまりいません。10人中1人とか2人とかのレベルだと思います。
もちろん、2の生徒、特にいま成績が下がっていて、自信を取り戻す必要がある生徒というのは、ちらほらいます。その場合には、姑息な手段になりますが、模試の対策をしてまず模試で偏差値アップを感じることは有力な場合があります。
偏差値アップがゴールではないから
模試の偏差値というものを絶対視している人は、生徒・保護者ともに(のみならず、たまに塾の先生でも)非常に多いです。
つまり、「模試で合格可能性80%出てるから多分大丈夫」と考える方が結構いらっしゃいます。
しかし、一つ一つのテストは生徒の能力全てを測っているものではありません。模試ごと、高校ごとに、問うている能力はかなり違います。
- 簡単な問題が多いのか、難しい問題が多いのか(ミス勝負なのか、難問を解けるかどうかの勝負なのか)
- 時間が厳しいのかそうでないのか
- 記述式か、記号選択や解答のみなのか
- (英語の場合)単語、文法、精読力、速読力、英作文、…
- (国語の場合)抜き出し、自由記述、記号問題、漢字、文学史、古文、…
- (数学の場合)計算力(精度・スピード)、図形的センス、数理処理、演習量を見たい問題、初見の設定への対応力を見たい問題、…
そんなわけで、模試の偏差値は重要な指標であることは否めませんが、最終ゴールではなく、途中途中のマイルストーンに過ぎないのです。
最終的に欲しいのは志望校合格だけであって、合格すればそれまでの模試の偏差値なんてなんでもいいですし、不合格ならそれまでの模試の偏差値もすべて無意味です。志望校合格にすべてを注ぐ意識で指導しており、あまり途中の模試の偏差値が高い・低いは意識していない(それよりは、どこを伸ばせるかを見ている)ということです。
まとめ
以上のような理由から、私は生徒の模試の偏差値の変動を殊更に取り上げて宣伝材料とするのは疑問視しています。
私は大手塾勤務時代に、担当するクラスの模試の平均偏差値は塾内トップを走り続けていましたが、個人の偏差値の変動にフォーカスして宣伝材料とすることは、おそらく今後もありません。それは、今回の記事に書いたことが理由とご理解いただければと思います。
なお、今回の記事は、「なぜコリス個別指導塾は具体的な偏差値アップの数字を書いていないのだろう?」と思われた方に向けた内容となっております。
特定の個人や塾を批判する意図はございませんので、あらかじめご了承ください。

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