「語学学習といえば、“1に文法、2に単語、3、4が単語で5も単語”」
東大言語学科の先輩から、そんな冗談めいた言葉を聞いたことがあります。
それくらい、単語学習は語学習得の中で大きな比重を占めています。しかし、単純作業ゆえに退屈でつらく感じることも多いですよね。
この記事では、中学生~難関高校受験レベルを想定し、「単語帳を使って英単語を効率よく覚える方法」を紹介します。第二言語習得研究の知見と、TOEIC満点の私自身の経験、そして指導現場での実践をもとにまとめました。
私は、単語帳1冊程度なら努力次第で1週間で覚えきることができます。そのコツをできる限り具体的にお伝えします。
単語の覚え方のコツ集
まず全体をざっと見る


(英検準2級単熟語EXより)
多くの人は、ページの上から順に“control→recover→…”と覚えていくでしょう。それでも悪くはありませんが、その前に見開き2ページ全体をざっと眺めることをおすすめします。
これは「ブロック学習(1つずつ完璧に覚える)」よりも、「インターリーブ学習(全体を何度も繰り返す)」のほうが記憶効率が良いという研究結果に基づいた方法です。
ざっと全体を見たら、改めて1語ずつ覚えていきましょう。その際も、一発で覚えようとせず、ページ単位で何周も回すことが大切です。
発音とスペルの関係を理解する
単語帳を始める前に、フォニックス(発音と綴りの規則)を押さえておくと、学習効率が何倍にもなります。
英語の綴りと発音は完全には一致しませんが、大部分は規則的です。以下のルールは最低限覚えておきましょう。
- サイレントE:母音+子音+e → 母音はアルファベット読み(例:cake)
- oa → “オウ”(例:boat。例外:broad, abroad, broadcastのみ)
- ow → “オウ”または“アウ”(例:snow / cow)。一つ一つ発音を覚える必要あり。
- ou → “アウ”(オウではない)(例:out。例外:5と6)
- oul,ough→“オウル”,“オウ”(例:soul, though。例外:foul, bough, plough, through, rough, cough、6)
- ought → “オーt”(例:bought, thought)
- ie → “アイ”または“イー”(例:die / field)
- ai, ay → “エイ”(例:say。例外:Thailand)
- au, aw → “オー”(アウではない)(例:August, saw)
- er, ir, ur → 同じ発音(例:her, bird, hurt)
フォニックスを身につけると、発音・リスニング・単語暗記すべてに良い影響が出ます。英語を本格的に学ぶなら、避けては通れません。
単語は「書かない」で覚える
「書かないと覚えられない!」という声もありますが、次の2つの理由で私はおすすめしません。
- 時間効率が悪い:書く作業は時間がかかるわりに、脳の活性度が低い。
- 今すぐ“書ける”必要はない:単語帳で鍛えるのは“理解語彙”です。
1は、さまざまな研究で明らかになっています。2について補足します。語彙には2種類あります。
- 理解語彙:見たり聞いたりして分かる単語
- 使用語彙:自分で使える単語
世の中には、「単語帳で使用語彙まで増やそう」という欲張った試みも多いです。
しかし、「単語帳で増やすのは理解語彙」と割り切った方が効率が良いというのが私の意見です。その後、読んだり聞いたり使ったりする中で、自然と使用語彙を増やしていきます。
もちろん、人によって「書くほうがしっくりくる」場合もあるので、そういう方は無理に変える必要はありません。
覚えにくい単語は語源を調べる
たとえば aboveboard(公明正大な)を覚えづらい場合、「aboveboard 語源」で検索してみてください。
由来:カードゲームで、手札をテーブルの上(above board)に開いて行うことから、不正ができない状況を指すようになったと言われています。
こうした語源を知るだけで、印象が一気に深まります。10語に2〜3語ほど、語源で覚えやすくなる単語があるイメージです。
特に「天才英単語」というサイトは語源・用法の解説が丁寧でおすすめです。
コアミーニングを考える
辞書にいくつも意味が載っていて、「これ全部覚えるの…?」と思ったこと、ありますよね。
多くの場合、核となる意味(コアミーニング)を考えることで、記憶すべき量を減らすことができます。
例1:apply
辞書上の意味
- 申し込む(apply for a job)
- 適用する(apply a rule)
- 塗る(apply lotion)
- 努力を向ける(apply oneself)
コアミーニング:
「ある力・注意・目的を向ける/当てる」
例2:run
辞書上の意味
- 走る(run fast)
- (店を)経営する(run a shop)
- (水・電気が)流れる(Water runs.)
コアミーニング:
「動き(動かし)続ける」
例3:conceive
辞書上の意味
- 想像する(conceive an idea)
- 妊娠する(conceive a child)
- (計画などを)思いつく(conceive a plan)
コアミーニング:
「心や体の中で新しいものを生み出す」
コアミーニングを考える際、語源は非常に役立ちますから、上でご紹介した「語源の検索」とセットで活用していただければと思います。
また、ChatGPTなどのAIも、コアミーニングを代わりに考えてくれますから、積極的にご活用ください。
プロンプト例:
applyには、申し込む、適用する、塗るなどの意味がありますが、コアミーニングは何ですか?
感情や色、感覚をイメージする
強い意味の単語を覚える際に有効なテクニックです。
たとえば、furiousは「激怒した」という意味ですが、怒っている感情や、赤色をイメージしながら覚えようとしてみてください。
anxious「不安な・心配している」であれば、不安感、灰色やくすんだ青をイメージして。
stickyという単語は「べたべたした」という意味と、「面倒な、厄介な」という意味がありますが、下の画像のようなべたべたした物質を触っている様子をイメージしながら覚えてみてください。

人の記憶は、強い感情を伴うと強化されやすいと言われており、このことを積極的に使った工夫です。
また、これに関連して、google画像検索も大変おすすめです。上の画像は、「sticky」で画像検索をして出てきた画像ですが、これを見ただけでもだいぶこの言葉のイメージの解像度が上がると思います。
「自分の文」で使ってみる
ちょっと大変ですが、かなり学習効果の高いやり方です。単語を使って自分ごと化すると、記憶が定着します。
たとえば、reluctant「嫌がっている」という単語を覚えたい場合、身近にいる最近何かを嫌がっていた人を思い出しながら、
She was reluctant to talk to the teacher.(彼女は先生に話すのを嫌がっていた)
みたいな文を、状況を想像しながら、心をこめて読むというやり方です。
「自分に関連すること、自分が考えたことを発話する」というのは、自分に関係ない例文を読むよりも、かなり定着率が良いという研究結果が出ていますので、それを使ったやり方です。最終的に英語が喋れるようになっている人は、このやり方をやっていた人が多い印象です。
何度も周回する前提で取り組む
初めにご紹介した、ブロック学習(1つ完璧に覚えたら次に行く)よりもインターリーブ学習(全体を何周も繰り返す)のほうが記憶効率が良いという研究結果を踏まえた考え方です。
単語帳は、1周しただけではなかなか定着にはいたりません。2周、3周、5周、10周と繰り返していくうちに、長期記憶に定着していきます。1周目よりも、2周目、3周目とどんどんかかる時間が短くなっていきますから、そんなに恐れるようなことではありません。
単語帳に愛着を持って、たくさん回してあげましょう。
例文も覚えるべきか?
「単語帳を使うときは、単語だけでなくて例文も覚えましょう」という主張を目にすることがあります。例文も一緒に覚えることで、使い方までマスターできるからです。
気持ちは分かりますが、私は例文を覚えることはお勧めしていません。
その理由は、単語を書いて覚えることをお勧めしていないことと似ています。
理由1:時間がかかりすぎる
たしかに、例文を覚えないよりは覚えた方が学びは多いでしょう。ただし、かかる時間に対する効率も考慮すべきです。単語帳1冊は1000単語以上あります。例文をすべて覚えようとすると、途中で挫折することになってしまいがちです。
理由2:長文の方が良質な例文である
たくさん英文を読んでいたら、その単語にもいつかは出会います。そして、そうした出会い方の方が、コンテクスト(文脈)を豊富に含むので、単語帳内のたった一文の例文で見るよりも、その単語の語感を感じ取りやすいです。
単語帳を例文まで含めて時間をかけて完璧にするよりは、単語帳はさらっと終わらせて、浮いた時間で文章をたくさん読む方が効率は良いと思われます。
以上のような理由から、私は以下のように指導しています。
例文は、使い方を見るために一度目を通しておけばOK。特に動詞の場合には、後ろに前置詞が続くかどうか、どんな主語や目的語をとっているかは注意深く見ておくこと。
また、後々の英文で出会うたびに、その単語のイメージを修正(膨らませる、減らす、ずらす)していく意識を持つこと。
精神論:まとめにかえて
「精神論」というと嫌われがちですが、単語を覚えるときの心構えというのも、実は効率にかかわってきます。
人はだれしも、覚えたはずの単語を忘れてしまっていたら、自分を責めると思います。そうすると、単語帳に向き合うのが嫌になってしまいます。
なので、単語を忘れていたときことそ、前向きになることを心がけてください。
「また覚えていいの!?1粒で3度おいしいじゃん!!ありがとう!!!」
というくらいの気持ちで、忘れた単語も何度も繰り返してみましょう。
そのうち、だんだん覚えていきます。
お互い頑張りましょう!

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